みなさま、こんにちは。
ライターの袋小路留でございます。
「知っているようで知らなかった」シリーズもいよいよ最終回。
今号は、<御料理 茅乃舎>の“里山料理”の秘密のお話をしたいと思います。
まずは、福岡市内から北東に40分ほど車を走らせた山間にある、茅葺き屋根のレストラン<御料理 茅乃舎>へご案内いたしましょう。
福岡県糟屋郡久山町を流れる猪野川に沿って山道を進むと、まるで日本昔話に出てくるような立派な茅葺き屋根の建物が現れます。それが<御料理 茅乃舎>です。このあたり、蛍の名所として知られていて、5月下旬から6月にかけて、蛍狩りで賑わいます。第1回でもご紹介しましたが、<久原本家>当主・河邉哲司が学生時代、ここに茅葺き家根のレストランを作りたいとひらめいたのも、蛍狩りの時でした。
日本の食文化と伝統文化を体験してほしい、そして素敵だと感じてもらいたい、という願いを込めた<御料理 茅乃舎>が誕生したのは2005年のこと。厨房を率いた初代料理長は岡部健二でした。食材探しに始まり、試作、試作の連続。メニュー開発にはかなりの時間をかけました。何より、頭を悩ませたのは、“茅乃舎らしさ”をどう表現するか、でした。メイン料理は「焼く」「煮る」に決めてあったのですが、「『煮る』は鍋料理にしたい」という想いがありました。鍋の主材料は、安心して口にできるものを求め、探しに探した結果、おいしさにも申し分のない大分・耶馬溪(やばけい)の黒豚に決定。
鍋料理を考える中で、黒豚、出汁、野菜のもち味、それぞれがケンカし合うことなく、三位一体となっておいしさを表現できる味づくりを目指しました。さらに、河邉の提唱する大切なテーマ「食文化の継承」をどう盛り込むのか。また、無添加、安全安心、生産者の顔が見えることも大事な要素でした。
試行錯誤の末、米や穀類の香りの持ち味を生かした鍋にすることに。「雑穀の香りを出汁つゆに取り入れたんです。シンプルなのですが、なぜかホッとする味になります。日本人のDNAのなかに受け継がれる何かがあるんでしょうね」。こうして、後に<御料理 茅乃舎>の名物となる“十穀鍋”がオープン直前に誕生したのです。
岡部が開拓した、先人の知恵を踏まえた味づくりとその精神は、現・料理長である尾﨑雄二にもしっかりと引き継がれています。尾﨑は多忙な中、前回ご紹介した長野おばあちゃんこと、長野路代(みちよ)さんのもとに月1回通って、一緒に料理をつくりながら、季節季節の伝統料理や風習など、様々なことを教わってきました。最近は尾﨑が行くと、長野さんは台所に立たず、尾﨑にすべて任せられるほど。すっかり長野さんの全幅の信頼を得ているのです。
ほとんどのコースメニューに入っている「路代おばあちゃんの逸品」は、今日は「白菜と油揚げの煮浸し」。おふくろの味やおばあちゃんの味を思い出す方も多いかもしれません。素朴だけれど奥深く、豊かな料理。長野さんの知恵袋から引き出された、伝えていくべき伝統の食文化が結実した逸品です。また、忘れてはならないのが「茅乃舎のスープ『大地の恵』」。元気いっぱいの旬の野菜がギュッと詰まった、まさに大地の恵みです。
さて、尾﨑の手になる十穀鍋をいただきましょう。昆布と鰹節でとった出汁に十穀と野菜がたっぷり。十穀は黒豚とともに口に頬張ると、ふわっと香ばしい香り。黒豚が甘い!野菜の味が濃い!いくらでも食べられそうです。
この鍋が評判を呼び、家でも食べられたらうれしいのに、という声にこたえて生まれたのが「十穀鍋」のセットです。このセットには、選び抜いた九州さんの黒豚を使い、また赤米や黒米など、十穀の組み合わせによって、出汁つゆを、春は淡く、秋冬は渋めの色合いに変えるだけでなく、春は「芽吹」(グリーンピース入りとろろ添え)、夏は「夕染」(赤葱油添え)、秋は「山吹」(焼き安納芋入りとろろと菊花添え)、冬は「霙(みぞれ)」(聖護院かぶら入りのとろろ添え)というように、四季を通じて楽しめる鍋セットとなっています。
こちらも岡部が監修し、お店とはひと味違った趣向を凝らした逸品です。
<御料理 茅乃舎>に行きたいけれど、なかなかいけないという方にも、ぜひご賞味いただきたいと思います。そして、いつかはぜひ<御料理 茅乃舎>の里山の風景の中で十穀鍋をお召し上がりくださいませ。
【物語1】茅乃舎だしの故郷は、福岡市郊外のホタルの里にありました。
【秘密1】茅乃舎のだしのおいしい秘密は、「焼きあご」の存在です。
【長野おばあちゃん】茅乃舎の“おいしい”を支える人々
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御料理茅乃舎に着くと、立派な茅葺き屋根の建物にきっと驚いていただけると思います。お料理はもちろん、建物も素敵です。四季折々で変わる自然の移ろいも感じられます。
勝部