いつもの献立がもっとおいしく映える丼があったなら。そんな想いで茅乃舎と深川製磁でつくった、しのぎ深丼。前編に続いて、丼のふるさとである佐賀県有田町の工房より、ものづくりの現場をお届けします。
深川製磁の工房の中でも特に広々とした棟。焼成の窯が並ぶ工房へやってきました。ここで一度乾燥させた丼を、900 ℃弱の素焼き窯で焼き締めます。素焼きの手間をかけることで、染め付けや釉薬掛けでの破損を減らすことができます。
素焼きした器は絵付け職人の安永なおみさんのもとへ。高台の裏面に染付顔料の呉須で深川製磁の「富士に流水」マークを染め付けします。
手でつまむ部分のスポンジは安永さんが後付けしたもの。やさしい力で押すための工夫です。
定規などは使わず、職人の勘だけで真ん中に刻印。「どれだけ経験を積んでも緊張するんですよ。器が無駄になるから失敗できません」と安永さん。
いよいよ釉薬掛けの工程です。まず、内側に白磁の透明釉薬をかけます。釉薬職人の山口 弘さんが噴水のように釉薬を吹き付けているのは、タコチュウという用具を改造した小さな手動ポンプ。さすがの職人技で器の外側に1滴たりとも飛び散りません。
透明釉薬を一晩乾かした後、外側に瑠璃と青磁(写真)のマット釉薬を掛けます。山口さんによると「外側の釉薬は濃度が高く、とろみがあります。釉薬の入った桶に器を沈める時、表面張力を計算しながらどこまでを浸すべきか判断しています」とのこと。
こちらが表面張力を利用して、ぎりぎりまで釉薬に沈めた状態。職人の感覚が冴えわたります。また深川製磁では釉薬や色絵の具の調合も自社で手掛けており、その専門の部署も存在します。
深川製磁の前身は、焼成を専門で行う窯焼き業でした。明治時代に深川製磁を立ち上げる以前、佐賀藩が世界に向けて発信していた磁器(伊万里焼)を窯焼きの技術で支えていたのです。
「そのため当社は焼成に並々ならぬ思い入れがあるんですよ」と焼成職人の溝口真司さん。古来より人々が憧れた「玉(ぎょく)」のように美しく透明感のある白磁をめざし、深川製磁独自の「高温度還元焼成」に取り組み続けています。
「高温度還元焼成」とは、まず炉内の温度を800℃まで上げ、その後、炉内の酸素量を減らし、コントロールしながら通常より高温の1350℃でしっかりと焼き切る焼成方法です。「炉内がいわば酸欠状態になり、その調整が上手くいくと澄み切った白磁が誕生します」と溝口さん。
焼成は朝から晩まで12〜15時間続き、職人がつきっきりで炉の中の火の様子を目視しながら微調整します。この独自の焼成方法で、深川製磁の代名詞である「深川ブルー」もつくられます。ただその調整はとても難しく、ブルーがきれいに発色しなかったり、器が高温で歪んでしまったりもします。
深川製磁製しのぎ深丼、いよいよ完成です。瑠璃と青磁のとろみのある釉薬がしのぎ彫りのくぼみにたまり、表情に深みをもたせています。瑠璃釉薬は茅乃舎のために今回調合してくださった特別なもの。白磁の爽やかな質感とのコントラストも素敵です。
工房責任者の深川 泰さんも「深川製磁の白磁の透明感をご覧ください。他にはないこの『白』がどんな食材でも美しくおいしく見せてくれるんです」と目を細めます。麺にご飯もの、和洋中・エスニックと何にでも似合う丼ぶりです。
深型なので、容量はたっぷりでいて女性の手にすっぽり収まりのいいサイズ感。高さのある高台も全体のフォルムを上品に見せてくれます。程よく厚みがあるので食材の温度を保ちながら、手に持った時には熱さは和らげてくれます。
「丼を手で包みこんだ時、ほっとひと息、温かい気持ちになってほしい」。しのぎ深丼から、造形デザイナー深川 篤さんの優しい気持ちが伝わります。全国の深川製磁直営店では、篤さんが考案されたデザインや別のしのぎ彫りの器と出会うことができます。
ちなみに、しのぎ深丼の粘土づくりや成形には、深川製磁が依頼した協力工房の手を一部お借りしています。今回のレポートは、深川製磁全体の器づくりとしてご覧になってください。
深川製磁製 しのぎ深丼“青磁”のご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/dougu/dougu/9724300/
深川製磁製 しのぎ深丼“瑠璃”のご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/dougu/dougu/9724200/
磁土づくりから焼成まで
すべてを自社職人の手で
佐賀県有田町の深川製磁は1894年に設立された有田焼の窯元です。1900年のパリ万博で金牌受賞などの輝かしい歴史でも知られ、世界でも稀有な製造工程を自社で一貫して手がける窯元として、確かなものづくりと磁器の歴史を継承しています。
しのぎ深丼がつくられる、深川製磁の工房を訪ねて 前編
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平皿と違い、丼は手で持って口元まで運ぶ器。手に馴染む形へのこだわりに、使い手への愛を感じました。
原