野田琺瑯オリジナル保存容器ができるまで。〜前編〜

日本のものづくりには、使う人のことを想い、暮らしに寄り添う素晴らしい道具が数多くあります。そんな食のシーンで活躍する、こだわりが詰まった道具を展開している「茅乃舎ノ道具」。

今回、日本が誇る琺瑯メーカー「野田琺瑯」と手を携えて、ここでしか手に入らないオリジナル商品「持ち手付味噌ストッカー」が実現しました。野田琺瑯の力添えで理想の容器が完成するまでの開発秘話を、ものづくりの現場からお届けします。

まずは容器のベースとなる素地加工を手がける昌栄工業の昌林賢一社長を、商品開発担当の宮﨑が訪ねました。

たどり着いたのは、琺瑯です。


真剣な眼差しでプレス工程を見守る昌林社長(左)と商品開発担当の宮﨑(右)。

宮﨑

だしを使う料理の中でも食卓の登場頻度が高い味噌汁は、今も昔も、日本人の食卓に欠かせません。

昌林

私も味噌汁は大好きです。まさに日本人の心ですよね。

宮崎

そこで茅乃舎では、毎日の味噌汁づくりがもっと気軽にできたらと、より使い心地の良い味噌保存容器の開発に着手しました。永く使えて、手に馴染む、しかも手入れが簡単な素材を追求し、たどり着いたのが琺瑯です。
そして琺瑯づくりにまず欠かせないのが、素地となる鉄板を成形するプレス加工ですよね。

昌林

そうですね。琺瑯づくりと金型づくりは一体です。私たちはプレス工場として、ここ東京の下町・向島で創業し、様々な製品のカタチを生み出し、変化やお客様のニーズに合わせて「知恵」を絞り、絶えず新しい製品を生み出しています。

日本のものづくりを支える職人の町、墨田区向島に昌栄工業はあります。

宮﨑

野田琺瑯は、1934年の創業以来、琺瑯づくり一筋にその魅力を発信し続けるメーカーですが、兼ねてより野田琺瑯の素地の一部も昌栄工業で手がけてらっしゃるんですよね。

昌林

はい。キャニスターの金型など、おつきあいは長いですね。

宮﨑

御社は独自性のある先駆的な発想と高い技術力を誇り、世界中の難しい金型を手がけ、「難しい加工は昌栄工業だよね!」と言わしめるほど、琺瑯メーカーから絶大な支持を受けていると伺っています。

昌林

ありがとうございます。特にケトルなどの複雑な形状の金型製造にはプレス絞り、へら絞りなど高度な技術が求められます。確かに弊社には、「こういうカタチが作りたいんだけど、どうかな?」という相談を持ちかけられることも多いです。無理難題、難しい形状ほど燃えると言いますか、できない! と言うのが好きじゃないんです(笑)。

巨大なプレス機が並ぶ昌栄工業の加工現場。

宮﨑

今回の「持ち手付味噌ストッカー」の素地づくりにおいても、昌栄工業さんの技術力を遺憾無く発揮していただいたんですよね!

昌林

そうですね。持ち手の部分には、弊社ならではのこだわりが詰まっています。

琺瑯づくりはカタチづくりから。

4つの工程を経て、容器の本体部分の素地が完成。

宮﨑

持ち手の詳しいお話を伺う前に、まずは簡単に琺瑯の素地づくりの工程を教えていただけますか?

昌林

琺瑯は、1枚の鉄板から始まります。プレス機にセットした雄型(凸) と雌型(凹)、2つの型がかみ合うことで鉄板が絞られて成形されます。

プレス機にセットした丸い鉄板がわずか数秒で円筒形に。

昌林

丸く切り抜いた鉄板を、プレス機でまずは円筒形に。その後、2度目のプレス加工で円筒を立方体に成形します。仕上げに余分なふちを切り、ふちをカール状に巻くカール巻きの工程を経て、保存容器の本体となる素地が完成します。

2度目のプレス加工で円筒が立方体に。

宮﨑

プレス加工の様子を初めて見学させていただきましたが、1枚の鉄板から素地ができるまで、いくつものプレス機が使われるんですね。

昌林

はい。弊社ではデザインや設計、素材に応じてプレス技術を使い分けています。金型作りでは、加工の際に鉄を引っ張ったり圧縮する時に生じる応力によってひずみが生じ、鉄の表面にわずかに模様ができますが、鉄板への圧力を変えずに絞ることで厚みが均一な美しい素地に仕上がります。その後、釉薬をかけて高温で焼き付けることで完成する琺瑯の仕上がりを大きく左右する重要なポイントの一つなので、どうしたら琺瑯が掛かりやすくなるかを考えて、形づくりをしています。

プレスされたばかりの1kg容量の保存容器の本体がずらり。

理想の型を求めて。

改良を重ねた持ち手の試作品。

宮﨑

今回の商品は、「伝統を受け継ぎつつ、現代の暮らしに合わせたスタイルで家庭料理を応援したい」という、野田琺瑯と茅乃舎、共通する両社の思いからオリジナル商品の開発がスタートしていますが、野田琺瑯の製品は、どれも日本の食を支え、生活に寄り添い続けてきたロングセラーぞろいです。

昌林

長く愛されている道具には、それだけの理由がありますからね。

宮﨑

野田琺瑯の今ある商品を生かしながら、何か新しいことができないか!? という思いで注目したのが、味噌保存容器です。そこで野田琺瑯の既存の持ち手付き保存容器をベースに、オリジナルの持ち手をつけた味噌保存容器を開発しました。イメージしたのは、昔から日本の台所に馴染みのある持ち手付きの塩や砂糖入れです。

適度な丸みと持ち手の十分な幅がこだわりポイント。ここからさらに改良を重ね、理想の持ち手が完成。

昌林

持ち手の丸みや角など、ちょっとしたデザインでも印象は変わります。丸みを帯びたものや台形型など、様々なサイズ、形状の金型をご提案し、試作を重ねましたね。

宮﨑

弊社の料理チームにも協力してもらい、片手で持って安定する大きさ、ミトンでも掴めるように幅は少し広めが良い、といった意見を取り入れ、毎日の暮らしの中で使うことを想定した使い手の声を尊重した形を採用しました。クラシックなデザイン、野田琺瑯さんらしさを踏襲しつつ、何よりも、実際の使い勝手の良さを大切にしたいと思ったからです。

持ち手部分のパーツと、それを生み出す金型。

昌林

使う人の声を何より大切にされる姿勢はさすがだな、と思いました。その想いに応えるために、本体と持ち手を接続する突起は通常2つのところを、より強度と琺瑯の仕上がりを安定させるために3つにすることにしました。

宮﨑

美しいだけじゃない、機能性を追求した緻密な形状、細部の丁寧な仕上げこそ、信頼の証ですね。今回プレス工場を訪れて、モノづくりに対する御社の真摯な姿勢に改めて敬服いたしました。

試作の持ち手をいくつも本体につけて、使い勝手を検証。

昌林

琺瑯は、釉薬を焼きつけて、初めて琺瑯となります。工業製品でありながら、焼き上がりによって一つ一つ風合いが異なる工芸品のような趣があるのも魅力の一つだと思います。素地を丁寧に仕上げれば、琺瑯は美しく仕上がると、私たちは自負しています。野田琺瑯の誇る、しっとりとした品の良い白をまとって窯から出てくる姿を想定して、工場から送り出しています。

プレス工場で働く昌栄工業のみなさん。

完成した素地はこの後、栃木県にある野田琺瑯の工場へ運ばれて、次の工程へ進みます。完成までの道のりは後編へ続きます。

野田琺瑯オリジナル保存容器ができるまで。〜後編〜

茅乃舎ノ道具「持ち手付味噌ストッカー」
販売ページはこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/dougu/dougu/9717600/

昌栄工業
1947年設立。金属プレス加工業を開業し、金属製品を製造する。難絞り、異形絞りをメインの加工技術とし、あらゆる製造方法に対応し金型から製品まで一貫生産を行っている。キッチン用品の製造、機械加工品の生産ほか、自社ブランドの琺瑯製品「kaico」の製造販売も手がける。
http://www.shoei-kogyo.com

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