ギヨーム・シェフ、こんにちは。
日本のだし、使っていますか。
「使ってますよ」。
♡おーっ、どんなふうに使われているのか、ぜひとも拝見させてください。
ここは、『フォーシーズンズホテル東京大手町』のフレンチ・レストラン、ミシュラン一つ星の『est(エスト)』。シェフはフランス人のギヨーム・ブラカヴァルさんです。日本に住んで11年。「日本独自の食文化に大いに感化されています」。四季の移ろいとともに変わりゆく食材探しにも熱心で、各地の素晴らしい生産者を訪ねる旅も続けています。「動物性のオイルや乳製品は極力控え、からだにやさしい、一口目からハッとしていただけるような料理をご提供したいと思っています」。
♡シェフがだしを知ったのはいつ頃なのでしょうか。
「日本に来てから、ごく自然に触れましたね。『トロワグロ』でも使っていましたから。日本の食文化を勉強するにつれ、昆布やかつお節の存在を知り、料理に取り入れるようになりました。フランスにいるときには気が付かなかったのですが、フレンチのソースは濃厚で強く、塩分も多い。そこにだしを加えることで、やさしくエレガントな味わいになる」。だしを加えることで〝エレガント〞になる。初めて知りました。素敵な響きです。「そして、うまみがあるから、塩分も控えめになる。どんどん塩分を使わなくなっているので、たまにフランスに帰ると、こんなに塩辛かったかとびっくりするほどです」。
♡今日、おつくりいただく料理は何でしょうか。
「昆布とかつお節のUMAMIを用いた料理〝カツオ、リコッタチーズ、レタス〞です。つくり方をさっと申し上げましょう。
カツオはサクの状態で稲わらでスモークして、フライパンで表面を焼きます。魚によっては桜チップを使って燻じることもありますが。まず、ソースはアスパラガスの茎の固い部分をミキサーにかけてジュースにし、昆布とかつお節を加えて軽く煮て、アスパラ風味のだしをとります。野菜を加えることで、甘みや野菜本来のうまみが加わり、より豊かな味わいになるんです。これを、レタスのクーリ(野菜を漉した濃いピュレ)に加え、オリーブ油、イタリアのケッパービネガー(さっと洗ったイタリアのケッパーに白ワインビネガーを加えたもの)も加えてつくります。皿にカツオをのせ、ロメインレタスでバターやにんにく、レモンの皮、アンチョビなどを巻いてオーブンでじっくり焼いたつけ合わせを添えました。上には、カツオと卵でつくったソースを縞状にかけています。仕上げに、さきほどのソースをたらりとかけます。全部を合わせて、さぁ召し上がれ」。
レタスの濃厚ソース
アスパラガスの根元の固い部分を切り取り、ミキサーにかけてジュースにして鍋に入れ、昆布とかつお節を加えて煮てアスパラだしをとる。これをレタスのクーリに加えてのばし、塩、胡椒、酢で調味する。他にも、野菜の皮を捨てずにローストして同様にだしをとることも。
♡この緑のソース、うまみ満点です。スモークのカツオとの相性もいいですね。あ、ソースだけでもおいしいです。シェフ、今日はありがとうございました。
GUILLAUME BRACAVAL ギヨーム・ブラカヴァル さん
フランス・レスカン生まれ。『アルページュ』、『ランブロワジー』といった錚々たる三つ星レストランを経て、2010年『アガペ』シェフに。その後、50年以上三ツ星をとり続けるグランメゾン、『トロワグロ』の主と出会い、東京の『キュイジーヌ(s)ミッシェル トロワグロ』のエグゼクティブシェフに。2020年9月より『est(エスト)』のシェフ・デ・キュイジーヌに就任。
est (エスト)
東京都千代田区大手町1-2-1 フォーシーズンズホテル東京大手町39F
tel. 03-6810-0655
生江シェフ、だしについてお話を聞かせてください。
「ミシュラン三つ星レストラン 『レフェルヴェソンス』を率いる生江史伸シェフは、国連でのスピーチをはじめ、海外の学会などで講演やレクチャーを頼まれることが多いといいます。この11月にはスペインの大学で、DASHIとUMAMIについてのプレゼンテーションをする予定だそう。
♡フランス料理のシェフにもかかわらず、なぜ、そういった依頼をされるのでしょうか。
「そもそもは、日本の食材を深く知りたいと願う海外のシェフたちから、水先案内人を頼まれたことがきっかけでした」。その機に乗じて自分も勉強したそうです。「日本という〝地元〞の食文化をベースに料理を展開するなら、まずは昆布やかつお節を勉強しなくては、と思いました」。礼文島で利尻昆布、枕崎でかつお節を学ぶうち、その技術の高さ、苦労や喜び、奥深さや尊さを知ったそうです。同様に日本の食材も広く学び、その素晴らしさをレストランで「おいしさ」を提供しながら、少しずつ伝えていたら、どんどんリクエストが増え、世界各地で話をするようになったそうです。
「海外のシェフたちにとって、トラディショナルな日本料理の話は難しいかもしれませんが、日本のフランス料理人の話なら、入口として入りやすいのではないでしょうか。海外の学会などでは、だしをこんなふうに使ってみてください。そうすれば、今まであった味わいが、より楽しくおいしくなりますよ、というところから話を始めています」。
実際、『レフェルヴェソンス』では、野菜のだしに昆布を加えたり、赤ワインソースにかつお節を入れたりすることがあるそう。「深みとうまみが増すんです。とくに、かつお節はスモーキーな風味が加わって、味わいが長く続くように思います」。
♡なんと! 目からウロコの話です。
コロナ前までは、丁寧にひいた一番だしを使った茶碗蒸しを出していたとか。もちろん、上にのせるもので、ロワイヤルに仕立てていたそうですが。日本のだしの素晴らしさを再認識する話でした。
生江史伸 なまえ・しのぶ さん
北海道『ミシェル・ブラストーヤジャポン』、英国『ザ・ファットダック』でスーシェフを務め、2010年東京に『レフェルヴェソンス』を開店。3年連続でミシュラン三つ星を獲得。サスティナビリティを推進するレストランに与えられる“ミシュラングリーンスター”も獲得。東京大学大学院修士課程修了。
L'Effervescence (レフェルヴェソンス)
東京都港区西麻布2-26-4
tel. 03-5766-9500
世界はUMAMIに恋してる♡
茅乃舎の7種のだしで。おすすめレシピ。
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今回は趣向を変えて、フレンチシェフにだしの魅力をお伺いしました。だしのうまみによって、塩分も控えられるとは嬉しいお話です。
袈裟丸