人が道具を作り、人と道具が毎日を作る。日常のいろんな場面で役立つことに加えて、そこにあるだけでも少しずつ、暮らしを築くさまざまな道具。それらを生み出す作り手が、日々、使っているモノとは? 今回は山中漆器の産地、石川県の山中で、100年以上続く我戸幹男商店(がとみきおしょうてん)の直営店で、4代目の我戸正幸さんに伺いました。我戸幹男商店で扱う、我戸さんの日々の暮らしの一部となっている、かけがえのない道具を紹介します。
1908年に我戸木工所として創業した我戸幹男商店の4代目、我戸正幸さんがこの日、奥様に用意してもらったのが豚汁。好物の容れ物に選んだのは、我戸幹男商店の「TSUMUGI 汁椀 瓢型」だった。ひょうたんの形を意味する瓢型とは、かつて薬入れに用いられたことなどから、健康や招福を象徴する形とされているとか。その柔らかなフォルムやケヤキの木目の表情と相まって、食卓に温かな雰囲気をもたらしてくれる。
さまざまな漆器が棚に並ぶ、我戸幹男商店の直営店「GATO MIKIO / 1」。お茶やコーヒーをいれる漆器の湯呑やカップも、豊富に扱っている。曲線をいかした「SAKURA 湯呑 たまご」(左)と、直線をいかした「SAKURA 湯呑 筒型」(右)は、見た目は大きく異なる湯呑とカップであるものの、どちらも、木材の質を含め、この地で受け継がれた木工技術の高さが際立つ、シンプルな佇まい。軽く、落としてもガラスや磁器、陶器に比べて割れにくい素材のため、大人も子供も安心して使うことができる日用の器だ。
国内の漆器産地のなかでも、「木地の山中」ならでの強みと言えるのが、木材の表情を多彩に引き出す「加飾挽き(かしょくびき)」。木地を横座式の轆轤(ろくろ)に取り付け、小刀を使って手作業で刻んだ「千筋」と呼ばれる無数の溝が美しい「茶筒KARMI 釜」は、その見た目に加えて、作りも繊細にできている。蓋と本体の木目が綺麗につながっているだけでなく、蓋を本体に置けば、蓋は自重でスーッと下がってピタッと収まる。暮らしの中でふと感じられる職人の手仕事は、日常を少し豊かなものに変えてくれる。
漆を木地に塗り、余分な漆を拭き取って、乾燥させて仕上げる「拭き漆」によって、木目が美しく上品に映える「四つ椀」。重ねられるため、収納時のスペースを抑えられるだけでなく、2通りに使えるというユニークな特徴を持っている。直径や深さがそれぞれ異なる4客の椀は、バラバラに4客の椀として使うことも、四つの椀を入れ子に組み合わせて、2組の蓋物として使うこともできるのだ。時間をかけて緩やかに変化する家族の人数や、日々のさまざまな用途に対応しながら、食卓を彩り続ける。
山中温泉の観光名所、「こおろぎ橋」の近くに2017年にオープンした「GATO MIKIO/1」。直営店のみのサービスとして、13種類の形状から椀を選び、好みに応じてカラーを選択できるセミオーダーシステムがある。壁面にオーダーサンプルが並ぶ空間で、普段から店舗で使用している「TURARI 椀 [M]+」を手に話してくれた我戸さん。白いシャツの胸についたブローチも、漆器でできたものだという。この地に根付いた工芸と現代の暮らしの接点を模索しながら、日々の道具としての価値を提案し続けている。
「我戸幹男商店/山中漆器 前編」では、我戸幹男商店の漆器が世に送り出されるまでのプロセスや、我戸さんのものづくりへの想いを伺って、紹介しています。
山中漆器〜前編〜 山中の伝統技法、漆器のある暮らし
※この記事は2021年に取材・作成したものです
※茅乃舎各店、および久原本家通販サイトでのしるし椀のお取扱いは終了いたしました
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