坂田織物/お買い物袋

久留米絣の織元とつくった、お買い物袋

■お話を伺った人:坂田織物 坂田和生さん・坂田由香理さん(福岡県八女郡広川町)

プラスチック製のレジ袋有料化が2020年7月よりスタートした。環境について思いをめぐらせ、サスティナブルな世の中にしていきたい。そんな想いがごくごく普通のものとして、浸透しはじめたように感じられる。そんななか茅乃舎でも、はじめてとなるエコバッグ、茅乃舎ノ道具シリーズ「お買い物袋」が誕生した。
毎日使っていただきたいから、丈夫で大きな瓶でもすっぽり入り、扱いやすいものがいい。また「お買い物袋」をつくる工程も、資源やモノを大切にする心と共にありたい。それらをかなえるべく、ご相談した先は、久留米絣の織元、坂田織物さんだ。反物である久留米絣の特長をいかせば、生地の両はじを断裁せずに縫製する「ミミ残し」の製法で、生地のロスをできるかぎり抑えることができるという。また、柄物が多い久留米絣のなかで、あえて「無垢」の生地を選んだのにも意味があることも、この後、ご紹介していきたい。丈夫で長持ちするモノと永く暮らす。人とモノのお付き合いの本質のような「お買い物袋」がうまれた現場、坂田織物の工場を訪ねた。

ゆっくり織り上げ、空気をまとう絣

カシャン、カシャン、カシャン……

朝の8時半。高らかな音を響かせながら、「シャトル織機」と呼ばれる久留米絣の織り機が、今日の仕事をはじめていた。毎日のことだから職人さんたちにとって耳栓は必需品だ。でも、ただワクワクと製作の現場を覗く私たちの耳にとっては、なぜか心をゆだねたくなる音だ。

古くは1915〜20年代生まれの織機がまだ現役で頑張っている工場。長い年月、久留米絣とその歴史を紡いできた姿を目の前で眺められることが、素直にありがたい。

工場には柄物を織る織機、無地を織る織機が24台。ノコギリ屋根の工場で、明かり取りの窓から光が差し込む。
板に巻き取られた糸。糸の白い部分は 、糸の束の 柄になる部分を 別の糸で縛って糊 付けし、染色しない「括り(くくり)」の技術を用いている。縛った糸をほどいた部分が柄になる。

「すごいスピードで動いているように見えるでしょう? でもね、今どきのデジタル織機と比べたら、とても遅いんですよ」とは坂田織物の代表取締役・坂田和生さん。一日中フルスピードで織り上げてもやっと一反。「ゆっくりゆっくり織るからでしょうか、糸にストレスがかからないんですよ」と企画・営業部長の由香理さんが続けて教えてくれた。

染色される前に「括り」を施された糸の束。高等専門学校と絣組合で協同して、デジタルで括る技術を開発した。括った部分にはしっかり糊付けもされている。

織り上がった絣に触れると、シーチング生地などのさっぱりした質感とはまた別物。ふんわりと空気をまとって、肌になじむ。「使えば使うほど柔らかくなるのが久留米絣の魅力なんです。シャツもモンペも着る人の身体へ寄り添うように、カタチを変えていく。とにかく心地いいから毎日そればかり着たくなっちゃう」と由香理さんは笑う。

使い古したら簡単に捨てられるものではなく、アンティークのように長く愛用したくなるような、自分の暮らしにも寄り添ってくれる布。久留米絣のそんな性格が私たちの考えるエコロジー観と相性の良さを感じた。

切り落としを最小限に「無垢」の生地を大切に使う

久留米絣といえば柄物、茅乃舎のペーパーバッグといえば濃紺のイメージだろう。

しかし、今回の「お買い物袋」はあえて、坂田夫妻が「無垢」と呼ぶ、染めをほどこさない生地でつくりたかった。いつも茅乃舎の真ん中にある“無添加”“安心安全”へのこだわり。それと同じものが「無垢」の生地のなかに感じられたのだ。

「無垢」の生地を織り上げていく、織機に手を入れる坂田さん。黒光りする織機は昭和の頃から使っているもの。

「茅乃舎さんと私たちで『いちばん茅乃舎らしい色って何だろう?』と何度も話し合ったんです。試行錯誤するなかで最終的にたどりついたのが『無垢』の生地でした。『無垢』が持っている“無漂白の天然素材”のストーリーと茅乃舎ブランドが、不思議なくらいぴったりと重なりました」と、坂田夫妻も背中を押してくれた。

薄手の生地。スラブ糸を用いて、あえて均一でない温かみが感じられる織りに仕上げた。

茅乃舎のお客様はお料理好きが多い。お買い物をする時、食材をたっぷりと詰め込めるように、マルシェ型で大きめサイズのお買い物袋をプランニングの基本にした。また折りたたんで持ち歩いていただきたくて、ポケッタブルのデザインを採用。折りたたみやすさを考慮した薄手の生地にするために、糸は久留米絣としては細い21番手のスラブ糸をセレクト。しっかり横幅がとれるよう、坂田織物の工場で織れる最大限の生地幅47cmで織り上げた。こうして茅乃舎オリジナルの生地が完成した。

折りたたんで「井桁」の柄のポケットに収納できる。大きくて丈夫だけれどかさばらない。

ポケッタブルの収納部分は、久留米絣を代表する井桁柄。茅乃舎が大事にしたいことを坂田夫妻が丁寧に汲みとっていただき、毎日使いたくなるお買い物袋へと仕上げてくださった。

久留米絣はもともと着物の反物がはじまりだ。着物に仕立てる時は、生地の両ハジのミミ部分を切り落とさずに残す「ミミづかい」とよばれる方法で縫製する。坂田夫妻はこの考え方をエコバックにも応用して、生地の破棄を最小限に抑えてくれた。唯一の裁断部分は、U字型にカットする持ち手の部分のみだ。「カットした生地も捨てずに、集めて保管しています。その生地で今度は鍋つかみを縫ってみる?と、みんなでアイデアを膨らませながらお買い物袋を縫っています。資源を無駄にしないところも、茅乃舎さんのイメージに繋がったんですよ」と由香理さんが教えてくれた。

着物用の反物は、はじっこの部分「ミミ」をそのまま活用でき、無駄の出ない縫製がかなう。
無垢の生地への思いを込めつつも、やっぱり久留米絣らしいデザインも取り入れたい。そこで、ポケッタブル収納の部分には、「井桁」柄を採用した。縦糸・横糸のくくり糸の技術で染めなかった部分(白い部分)が重なり合い、柄が浮かび上がる。

久留米絣のこれからをひらく

日常としての着物需要が減って久しい。最盛期には100軒以上あった織元が2020年現在、21社まで縮小した。久留米絣を受け継ぐ世代は先細りという、深刻な問題がある。それでも、坂田さんは、久留米絣の文化を未来につなげていくことに使命を感じ、主体的にさまざまな取り組みに挑んでいる。

例えば、廃業する工場があると聞けば織機を引き取り、保管しておく。年季の入った織機が故障したときのための交換用の部品を確保するのだ。また、現在は機械織りが専門ではあるが、藍染めと手織りの文化も引き継ぎたいと、15年ほど前に藍染めの技術を取得し、専用工房も増設した。重要無形文化財(久留米絣)の技術伝承者の資格も取得したほどだ。残ったくくり糸を再利用する「TUGU」プロジェクトやニューヨークなど海外で絣を広めるプロジェクトにも取り組む。職人でありプロデューサーであり、営業マン。深刻な問題を横目に、闊達に飛び回るお二人に、久留米絣への希望を感じる。

坂田織物の倉庫には古典的なものからモダンなものまで、たくさんの柄の久留米絣が並んでいた。縦糸と横糸を織る際、染められていない部分が重なって柄の白い部分となる。

「久留米絣は使ってもらってなんぼの生地だと思うんです。みなさんが日常的に使える生地を織り続けられるように、量産システムを維持しながら、長年生活の一部になる製品をつくりたいですね」。茅乃舎のエコバッグがそんなひとつに仲間入りし、これからみなさんに使っていただける。ほんの微力ではあるけれど、久留米絣のこれからをつくり、広げていくお手伝いができたら、とても素敵なこと。そううれしく考えながら、工場を後にした。

坂田さんご夫妻。ご主人で代表取締役の和生さんは営業から職人に役割を変えた。奥様の由香理さんは企画・営業部長として久留米絣をアパレル製品に仕立て、あらたな魅力を発信している。

坂田織物さんのホームページ
http://www.sakataorimono.com/jpn/

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