高野竹工/茅乃舎特注 京竹短箸 後編

暮らしに息づく竹素材から広がるあらたな可能性

今回ものづくりの現場を案内してくださったのは、前編でご紹介の西田隼人さん。高野竹工での業務の傍ら、様々なものづくり・場づくりで第一線に立つ人たちと手を取り合い、竹の可能性を広げ、革新的な取り組みを推進している。箸とともに暮らしをつむぐ家庭人であり、箸を介して会社・地域・人を盛り上げたいと望むエネルギッシュな人。作り手の側に立つ身として、これから自分に何ができるのか──。同社の広報担当を務める井澤葉子さんとのランチタイムにお邪魔して、箸にまつわる色々な想いを伺った。

お二人が「1日の楽しみ」というランチ。作り手から使い手に変わるひととき。

竹箸は日本らしい文化を思い起こさせるもの

「あ、シャケが入ってる」。弁当を開けた西田さんの顔がほころんだ。「今日の撮影用に、奥さんが豪華にしてくれたかな?」。弁当箱に添えられた竹箸は、ちょうど弁当箱に収まる長さ。食卓で邪魔にならない取り箸にするための19cmの長さは、なるほど弁当箱に携行しやすく、また、子ども用にも適したサイズだ。

西田さんの愛妻弁当。極細の竹箸は軽量かつ安定感があり、ストレスなく使える。

長年箸作りに取り組む西田さんにとって、食卓に不可欠なこの道具はどう映るのか。
「箸の文化は、日本の丁寧な暮らしを思い起こさせるものですね。最近はSDGsなどの社会情勢で、木の素材は追い風になっているように思います」
井澤さんもそれに頷く。「それが上質な作りの箸だと、風景も少し違って見えてきますよね」。

「竹は口に触れた時の感触も最高。うちの子どももずっと竹箸がお気に入りです」。そう、箸は食卓でもっとも人と触れ合う道具。丈夫でつかみやすい1膳ならば、食事の快適度も増すだろう。毎日使う道具だから、器並みのこだわりで選ぶべきものかもしれない。

わっぱ弁当は2代目という井澤さんも竹箸の愛用者。「使い心地が良くて、もう先の太い箸には戻れません」

基本的に木製の箸は消耗品だが、「大事に扱えば4~5年はもちますよ」と西田さん。ポイントは、洗ってから濡れたままにしないこと。布巾で拭き、自然乾燥させればカビ防止になる。また竹はプラスチック並みの耐久性があるが、熱に弱いので食器乾燥機は避けた方が良いそうだ。

私たちもお昼に取り箸としてこの竹箸を使ってみた。おにぎりもしっかり掴めて崩れない。

思いやりがなければ、何も伝わらない

日頃から社会や環境などに広く関心を持ち、アイデアを巡らせている西田さん。もともと考えることが大好きで、難題も苦にならない性格。過去に多彩なジャンルの作家とコラボレーションしてきたように、今後も外の世界と積極的に絡んでいきたいと意欲をみせる。「いつか全国にいる工芸の仲間たちと、大規模なイベントをやってみたいですね」という夢も明かしてくれた。

そんな豊かなバイタリティの持ち主は、インスピレーションをとても大切にする。身の周りに置く品々も、作り手としての感性を広げてくれるものばかり。子どもたちと寺社や山で集めた小石はその1つだ。
「平凡な石ころですが、子どもたちはすごい石だと思って拾ったのでしょう。そんな自然に感動する心を忘れたくなくて、いつも持ち歩くんです」

野山で拾った石や造形が面白い根っこなどが西田さんの感性を刺激する。

愛読書は、金工作家・長谷川竹次郎さんが我が子のために作ってきた贈り物を、1冊の写真集にまとめた『父の有り難う』。全ページに父の愛が溢れるこの本は、仕事の意味や価値を捉え直すきっかけになった。「いくら技術を伸ばし、誰かを喜ばせたくても、結局思いやりがなければ何も伝わらないということ。この本は、私たちが“次に進むべき道”を示してくれた気がします」。

長谷川竹次郎さんの写真集を開く西田さん。読むたびに贅沢と幸福が感じられ、また勉強にもなるそう。

先代から受け継いだ知恵を次世代へ

近所の支援学校の生徒を対象にしたワークショップも、きっとその道に繋がっている。高野竹工で学んだ箸づくりの技術が、いずれ彼らの自立に役立てばと願っての催しだ。

「これはあくまで個人的な目標ですが」と西田さんが続ける。「支援学校やものづくりの工房が集まって、誰もが気軽に集える体験型の施設ができたらいいなって」。生徒が作る箸の販売所として、また自然災害時は住民の避難所として──と、西田さんはそこに様々な可能性を見る。「地域を巻き込んだ循環型コミュニティですね。先代から受け継いだレガシーを、そういう方向に活かせたら素敵だと思うんです」。

高野竹工が管理する竹林。商品づくりでは繊維の細かい真竹が使われている。

ランチの後に高野竹工が管理する竹林を案内していただいた。目と心に、緑が優しく染みる場所だった。
「いつもこんなことばかり考えるせいか、昔気質の職人さんには異端児と呼ばれてます」と笑う西田さん。「でも本当にしたいことが見つかると、なんだかワクワクしません?」

その気持ちを何度も味わうため、そして職人や自分に飛躍の場を与えるため、西田さんの奮闘はこれからも続く。風に揺れても芯がぶれず、そしてしなやかな竹のような人だと思った。西田さんが切り拓く道は、未来の高野竹工にどんな化学反応をもたらすだろう。

ふかふかとした足元のあちらこちらに竹炭が撒かれていた。廃材の竹は炭になり、やがて竹の養分になる。

身近な竹を使って、暮らしに寄り添う道具をつくる高野竹工さん。前編では竹のお箸が世に送り出されるまでのプロセスや、ものづくりへの想いについてお話を伺っています。

高野竹工/茅乃舎特注 京竹短箸 前編

前編でご紹介のお箸(3種)は、茅乃舎西宮ガーデンズ店にてお取り扱いしております。お問い合わせは直接お店へご連絡ください。

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西宮ガーデンズ店
https://www.kayanoya.com/shop/nishinomiya-gardens/

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