台所の片角で、ひと際目を引く深い藍色の甕。近ごろ仕込んだ味噌をそのなかに静かに寝かせている。味噌をつくろうと、入れ物までこだわって、ようやく見つけたのが常滑焼の甕。そう、今回の主役は味噌やぬか漬けなど発酵食を保存する道具だ。
土もののあたたかさが伝わる「TOKONAME CROCK」は、焼き物の産地である愛知県常滑市でつくられている。CROCKとは甕のこと。山源陶苑の3代目陶主である鯉江優次さんがこの甕を手がけた。昔から常滑では水や食品を貯蔵する大きな甕や壺がつくられ、全国各地で使われてきた。いくつもあった甕をつくる場も、鯉江さんが家業を継ぐころは2軒のみ。海外製が増えたり、人手不足になったりと厳しい現実を前に、日本の発酵食や保存食を支え続けてきた常滑焼の技術や魅力を見つめ直すことから彼の仕事ははじまった。
常滑が窯業の町として発展したのは、この地域で採れる良質な土のおかげ。鉄分の多い土は、低い温度でもしっかり焼き締まる性質を持っているので、大きな焼き物づくりに適している。「いまはプラスチックやガラス、琺瑯などさまざまな素材の保存容器があります。それぞれ良いところがありますが、土ものの場合、温められにくく冷めにくい性質をもっているので、温度を一定に保つことができ、菌が嫌う急激な温度変化から守ってくれます」。そのうえ、酸や塩分に強い釉薬仕上げが、常滑の甕を味噌や梅干し、ぬか漬けづくりの定番にした。
陶器ならではの厚みのため、他の素材に比べて重い。はじめは約3㎏ほどの重さに躊躇する方も。そんなとき鯉江さんは、厚みによって外気の温度変化を受けにくく、発酵に良い影響をもたらしてくれると、その魅力を丁寧に伝える。「選択肢が多いなか、選んでくださった方がもうひとつ欲しいとか、常滑の甕だとおいしいと言ってくださることが何より嬉しいです」。
昔ながらの技法を大切に、はじめての方にもご家庭で楽しんで欲しくて使い勝手が良いものを目指した。かたちは、仕込みがしやすいように口の広い円筒形に。ものを上に積み重ねられるように蓋はフラットに。
2.5㎏ほどの味噌を仕込めるサイズは、茅乃舎のお店で開催する味噌づくり教室や、WEBで不定期販売している「手作り味噌キット」にぴったりの容量だ。麦麹と米麹、蒸した大豆を混ぜ合わせ、ひたすら捏ねたらCROCKへ。台所など部屋の片角に置いて、ときどき味噌のでき具合を確かめる。台所にいる時間が増え、甕仕込みの味噌に愛おしさがこみ上げてくる。
CROCKの定番カラーは茶色やホワイトだが、茅乃舎のイメージカラーである鉄紺色の釉薬で特別につくっていただいた。どんな部屋にも馴染む深い色合い。シンプルで飽きがこなくていい。大切に使えば、それこそ一生もの。手軽とか、便利とか、そんな言葉が当てはまらない道具との付き合い方を学べるような気がする。たっぷりと味噌を仕込んで、好みの食べごろになれば、使う分だけ甕から出して。〝手前味噌ながら〟、鯉江さんの甕で丹精込めて育てた味噌を自慢してみたい。
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山源陶苑
日本六古窯の一つ、常滑焼の窯元として1967年に創業。
時代の要請に応えてきた陶工の姿勢を継承し、現代の生活に合う常滑焼を開発・製造しています。
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