日が暮れるのが日毎早くなり、寒気をまとった空の下。家路へ急ぐ帰り道でこんなことを思う日がありませんか?「今夜は燗つけにしたお酒が飲みたい」。
それは、大人に許されたちょっと贅沢なひと時です。ゴクゴクではなく、ちびりちびりと。香りを楽しみ、酒の甘みとうまみをじっくり味わい、お腹の底から温かみに包まれる幸福感たるや。
けれど、“燗つけ”というワードに、「上手につけられるかな?」「温度管理が難しそう」「何度も席を立つのは面倒くさい」と、躊躇してしまう気持ちも隠せません。
そこで、今回は“燗つけ”の敷居をぐんと下げてくれる、やさしいレクチャーとお燗に合うだし料理のレシピを「捏(つくね)製作所」の菅原夫妻に習いました。燗酒をこよなく愛するプロからの、おうち晩酌の招待状です。
身近な食材で簡単につくれる一品揃いなので、お酒を飲まれない方も是非お試しくださいね。
やって来たのは福岡県にある「捏(つくね)製作所」。その名の通り、旬の食材を取り入れたつくねが名物ですが、季節を問わず“燗酒推し”なのがこの店の核ともいえるところ。温めて飲む日本酒と食材、どちらのおいしさも対等に引き出す料理をつくっているのが店主の菅原淳思さん。燗つけは慶さんが担当しています。
今回ご紹介いただいた料理を一言で表すと、身近な食材が持つ味わいをだしが支え、シンプルだけれど味わい深く、燗酒を添えればおいしさ一際。そんな素敵な晩酌のすすめ、はじめてまいりましょう。
お酒に合うといってもいわゆる「あて」ではなく、おかずになる料理なので食べ応えも十分。お子さんやお酒を飲まない家族と食卓を囲んでも、おいしさを共有できそう。お腹を空かせて、準備に取り掛かりましょう。ポイントは「過度な味付けをせずに、油も控えめに」。だしをほんのり効かせて、やさしい味に仕上げます。
「飲み疲れ、食べ疲れせずにゆっくり長く味わうには、薄味の方がおすすめなんですよ」と淳思さん。味覚神経を司る舌や内臓が温められることで、お酒や料理の味わいをより繊細に感じ取れるのも燗酒の醍醐味なのだそう。
なので今回のだしは、いつもより薄めに仕立てます。「茅乃舎だし」1袋に対して通常は水400ml使用するところを、倍の800mlの水で煮出します。だしがらは後で料理に使用するので取っておいてくださいね。
「だしのうまみはしっかり底味があるので、この薄さでも十分」と淳思さん。
今から紹介する大根とつくね2つのレシピで使用しますが、残っただしは日本酒と3対1くらいの割合で合わせて「だし割り」にしても良いそうですよ。是非お試しを。
まずはコトコトとだしで大根を炊く料理から。大根を炊いただし汁には大根の甘みも染み出ています。それを使ってあんをつくるというおいしさを重ね合わせるレシピです。
大根が炊けたら別の鍋であんをつくりますが、海苔を入れるのがポイント。みるみる溶けて磯の香りが立ち上ります。
「大根の素朴さ、海苔とだしのうまみをシンプルに。料理とお酒、両方の良さを感じ取れるように仕上げました」。
だしが染みた大根にあんをたっぷり絡めて、お召し上がりください。
ふろふき大根 海苔あんかけのつくり方
詳しいレシピはこちらを押す
ふろふき大根 海苔あんかけのつくり方
[材料](2人分)
大根
4~6cm
下準備をした茅乃舎だし(800mlの水に茅乃舎だし1袋を入れ、沸騰後2~3分煮出したもの)
適量
A
大根を炊いた汁
90ml
酒
大3
鶏ももひき肉
50g
おろし生姜
少々
焼海苔
4切×1枚(1g)
塩
1つまみ
うす口醤油
小2
B
片栗粉
大1
水
大1
[つくり方]
お次は、待っていました! つくね料理です。ここで登場するのが、下準備でとっておいた「だしがら」。鶏ひき肉に加えることでコク深くなります。このアイデアは他のひき肉料理にも生かせそうですね。
温めただしにつくねを落とし、豆腐を加えて味を整え、とろみをつければ完成。お好みで柚子胡椒の辛みを効かせます。ピリッと辛みのアクセントが大人味。
「和の麻婆豆腐のイメージです。つくねにも汁にもだしが感じられて、柚子胡椒のうまみある辛みは日本酒によく合いますよ」。
つくね豆腐のつくり方
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つくね豆腐のつくり方
[材料](2人分)
豆腐
1/4丁
長ねぎ
1/2本
下準備をした茅乃舎だし(800mlの水に茅乃舎だし1袋を入れ、沸騰後2~3分煮出したもの)
300ml
酒
大1・1/2
塩
1つまみ
柚子胡椒
お好み
B
片栗粉
大2
水
大2
[つくり方]
料理が2品揃ったところで、お燗をつけましょう。燗つけの極意を尋ねると「難しく考えないでくださいね。家庭ではざっくばらんにいきましょう」と、慶さん。“自分好みの飲み方を楽しく見つける”を目標に、この冬はお燗上手を目指します。
日本酒は幅広い温度帯で楽しめるお酒。特に燗酒はつける手段や温度、時間、合わせる料理などによって表情が変わります。温めることでうまみがふくらみ、ひやでは感じられなかった香りや味わいがぐっと引き出されるそう。
今回は鍋と徳利を使用し、卓上で料理を食べながら燗つけできるようにカセットコンロで温めます。つけるお酒にセオリーはありませんが、例えば"香りが穏やかなものがベター"など向き不向きはあるため、酒屋さんで「燗酒で飲みたい、こんな料理に合わせたい」と尋ねるのが確実です。
外食先でおいしかったものを覚えておくのも、選ぶ際の指標になるのでよいですね。きれいめで線が細いお酒は比較的早く、しっかり骨太なお酒はつける時間が長めになる傾向があるそうです。
では、ここから燗つけのポイントです。まず湯量は酒器の半分がつかるくらい。お酒は徳利の8~9分目くらいまで注いでおきます。鍋に火をかけて沸いたらごく弱火に落とし、ふつふつと小さな気泡が湧くくらいの状態をキープします。ここまでで準備完了です。
「これからお酒を温めていきますが、銘柄によって花開くタイミングは千差万別。またお好みの温度も人それぞれなので、温度計は使わず、時間と自分の感覚で見極めましょう」と慶さん。鍋に徳利を入れて5分前後を目安に弱火にかけます。
「お風呂に入ることをイメージすると分かりやすいですよ。熱々のお湯だと短時間であがってしまうので、芯まで温まっておらず、早く湯冷めしてしまいますよね。程よい温度に長く浸かると、深部からじっくり温められ、燗冷ましになった時も安定感があるおいしいお燗に仕上がります」。
ゆっくり対流させるように熱を加えることで、本来のうまみや香りが花開きます。その変化を感じるために、料理と同じく味見が大切。まずはそのままの温度で味見した上で、5分経った頃合いで燗酒を一口。ふわっと香りが立ち、常温のものよりも甘みとコクが感じられました。
「好みのバランス感、温度になっていればお湯からあげて。味のふくらみ、うまみがまだ不十分かな?と感じればもう少しつけてください」との言葉を聞いて、ほんの少し待つことに。1分後に味わうと、うまみの余韻を一層長く感じました。「これだ!」という自分好みのタイミング。
「知識やテクニックよりも、このお酒をおいしく飲みたいという気持ちが何よりも大切。酒器やお酒で条件は変わるので、いろいろ試しながら難しくとらわれずに、自由に味わってくださいね」。
お燗のつけ方
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お燗のつけ方
[徳利でのつけ方]
最後に締めの麺も紹介していただきました。こちらは「椎茸だし」を使って、きのこたっぷりの和え麺に。
「だしで炊く煮込み麺のような一品です。油は香りづけのみ、大根おろしでさっぱりといただけますよ」。
汁ものではないので、お酒のつまみとしてもいいですね。お燗のふくよかなコクときのこのうまみがぴったりで、さっぱりとした後口が次のお酒を誘います。これは、締めといいながら止まりません!
きのこおろし和え麺のつくり方
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きのこおろし和え麺のつくり方
[材料](2人分)
塩
小2/3
おろし大根
200g
ごま油
少々
ゆで中華麺
2袋
長ねぎ(青い部分)
適量
[つくり方]
温かな燗酒とだし料理でやさしい酔い心地に浸れます。たまには、ゆっくり晩酌タイム。「燗酒をおいしく飲むぞ」の気持ちの準備ができたら、早速今夜、一献傾けましょう。
茅乃舎だしのご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/dashi/
椎茸だしのご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/all_dashi/shiitakedashi/
捏製作所
福岡県福岡市早良区藤崎1-14-5大産藤崎コーポ1F ☎︎092-833-5666
11:00~19:30、金17:00~21:00 木定休 ※その他不定休あり
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