ある時、「茅乃舎」の食の先生である長野おばあちゃんから「ばっかし料理」という言葉を耳にしました。
同じ食材のおかずばっかし。
なんとなく残念なトーンに聞こえてしまいますか? いえいえ、「ばっかし料理」は旬を食べ切る工夫に満ちた素敵な知恵なのです。調理法、食感、味付け、ひとつの食材でも味わい変えて並べれば、その違いを楽しめるご馳走に。
「あるものを食べるしかなかった時代、それでもおいしく食べれば幸せ」。それが今も長野おばあちゃんの原点なのだそう。特に旬の野菜は安く大量に手に入り、おいしさも一際ですよね。
たくさん手元にある食材ばっかしで。
うれしいトーンに変えて、旬を楽しく食べ切る達人を目指しましょう。
ばっかし料理を習うのは、いつも料理の原点を思い出させてくれる長野おばあちゃんこと、長野路代さん。福岡県飯塚市の農家の生まれ、農産加工品を手づくりする「野々実会」の代表でもあり、「御料理 茅乃舎」では立ち上げからずっとアドバイスをいただき、コース料理には「路代おばあちゃんの一品」も取り入れています。
93歳の今も毎日畑へ行って、今ある食材で料理するのが日課です。「そろそろあれが収穫時期だから、その後はあれを植えて…」。野菜の成長とともにある長野さんの暮らし。しっかりとした足取りで広々とした畑をまわる元気の源は、まさにこの緑の中に。
「農家では朝昼晩、同じ食材ばっかし食べるの。でもいろいろな料理を工夫してつくるから飽きないし、おいしいからそれで十分」と長野さん。
今日も大収穫です。
長野さんの食卓には野菜の収穫時期に合わせて「なすばっかし」「きゅうりばっかし」「じゃがいもばっかし」。そんな“ばっかし料理”が並びます。
畑を訪れたのは、7月の終わり。手にしたのはコロンと実ったかぼちゃです。収穫は夏から秋にかけて、長く保存できるので一年を通してお世話になる食材ですが、普段なかなか使い切れない大きなひと玉は、ばっかし料理にうってつけ!
「どんな献立にしようかね。決まりはないから、工夫しておいしく食べ尽くそうね」とにっこり。忙しい農家さんの1日の献立を再現してもらいました。
目覚めの朝食にはさらっと軽く食べられるもの。農作業の合間に食べる昼食はしっかりスタミナを付けて。夕食はかぼちゃを主役にみんなで囲んでゆっくりと。時間軸でメニューの流れを考えるのが、ばっかし料理のポイントです。
「朝ごはんは漬物と汁物があれば十分」と、漬けておいた「かぼちゃのぬか漬け」を取り出します。長野さんのぬか床には昆布や山椒、赤唐辛子が入っていますが、うまみを足したい時は、「茅乃舎だし」の出番。約2kgに対して1袋を破って入れてよく混ぜ込みます。
かぼちゃは種とわたを取って、3mmにスライスして2時間半ほど漬け込むだけ。「漬物には穫れたての若いかぼちゃがいいね」。甘味が引き立ち、朝の目覚めに心地よいシャキッとした食感です。
続いてスープをつくりましょう。「茅乃舎だし」でかぼちゃを煮て、味付けは高菜漬けで。たまごを溶き入れれば、ほんのり酸味が効いたスープの完成です。
「ちゃんと味見しようね」。味覚を育てるのは日々の積み重ね、心得ました!
かぼちゃの高菜漬けスープ
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かぼちゃの高菜漬けスープ
[材料]
[つくり方]
まだまだ、かぼちゃはどっさり。それではかぼちゃが主役のおかずといきましょう。
仕事の合間に食べるお昼は、さっとつくれてしっかり食べられるものをと、牛肉を挟んだ天ぷらを用意。甘辛く煮た玉ねぎと牛肉をかぼちゃで挟んで海苔を巻き、天ぷら粉に通してサクッと揚げます。
「こんな料理、思いつくなんて!」と驚いていると、「どうおいしく食べようか、考えることが“ばっかし料理”のコツ」と長野さん。かぼちゃはホクホク、肉はジューシー。おいしい掛け合わせが見事な一品でした。
かぼちゃといえば、煮物は欠かせません。長野さん流の「いとこ煮」を伝授いただきましたよ。立ち寄った人にも振る舞うために、たっぷりと大鍋で調理します。「まさめ」という地豆を使用しますが、一般的な小豆でも代用いただけます。
まさめでかぼちゃのいとこ煮
詳しいレシピはこちらを押す
まさめでかぼちゃのいとこ煮
[材料]
[つくり方]
ぷっくりとした豆に、だしが染みた甘くほっくりとしたかぼちゃ。風味豊かなやさしい味わいは、1日の仕事を終えた体に染み入るようです。
3時のおやつもかぼちゃで癒されましょう。かぼちゃを蒸して、かぼちゃのおはぎをつくります。蒸している途中で、あれれ、長野さんがかぼちゃを数個取り出しました。その真意は後ほど。
蒸しあがったかぼちゃに塩を少し加えてつぶします。「これも足そうか」と、いとこ煮のまさめも混ぜ込んで、つぶして丸めた餅米を包みます。
かぼちゃの甘みにほっと心休まるおやつを堪能。
取り出した蒸しかぼちゃは、スライスしたきゅうりとしそ、ドレッシングで和えてサラダに。気づけばもう一品増えていました。中心は食感残る蒸し加減で、シャキシャキきゅうりと好相性。あるものでさくっとつくる。これぞ、ばっかし料理の真髄です。
「かぼちゃを蒸したものは、味噌汁に入れたり、ごはんにのせたり、使い道はいろいろよ」。
煮て、揚げて、スープや漬物、サラダにも。甘みが際立っていたり、うまみが染み渡っていたり、食感もシャキシャキからホクホクまで。食材のいろいろな面が見えてくる、ばっかし料理。黄色尽くしの食卓がなんだかとっても愛おしく感じます。
旬の野菜や正月のお餅でも。料理の幅を無理なく自然に広げて、手元にたくさんあるもの“ばっかし”を並べる達人になれれば、長野おばあちゃんのような真の料理上手となれそうです。
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92歳の長野おばあちゃん。会うたび元気をいただいています。皆さんにもその元気の源が伝われば幸いです。
齊藤