そう、度々起きるんです。
生産者さんを訪ねるとき、携帯のナビから見放されてしまうこと。
今回も、もれなく。
「えっ、本当にこの先ぃ〜?」とつぶやきながら進む山道。でもほんとうは不安よりも、ずっと期待が勝っているんです。わくわくアンテナ、発動です。
「こんな場所を選ぶなんて、さては、普通の人ではないぞ...!」。
ナビどころか携帯すら通じない...そんな山道を迷いに迷い着いた先には、鶏と小鳥の鳴き声が絶え間なく呼応し合う生き物たちの楽園。まるで大人の秘密基地のような木造の小屋から、穏やかな笑顔で出迎えてくれたのは、「ゆむたファーム」の髙木さんです。
昨年の6月。
まだ初夏の爽やかさが残り、新緑が生い茂る美しい晴れの日のことでした。
土の中から、むくむくっ!じゃがいものお出ましです。
「ことしは、大きい!」
「色もきれいだ、親ダネがいい仕事してくれたなぁ!」
髙木さんの声がこころなしか高くなり、こぼれるよろこびと安堵。
それもそのはず。
今日は、じゃがいもの初ものを掘る日。
急がない、急がない。
人間都合の時期ではなく、あくまで野菜の成長ぶりに合わせて。
もう1週間、もう1週間…と待ちわびて、ようやくやってきた収穫の日なのです。
じゃがいもの成長に寄り添う、そんな髙木さんの様子から早くも、“自然”という言葉が浮かんできました。
むっくりと土から出てきたのは、赤いじゃがいも。ほんのり蜜っぽくて、くりっとした味わいの「レッドムーン」という品種です。ポテトサラダにすると、それはもう、格別なんだそう。もちろん、馴染みのあるじゃがいもも。
「ゆむたファーム」? 福岡の方であれば、あれ?と思った方もきっといらっしゃるはず。そうです、“レモン色のたまご”で有名な“あの”たまご農家「ゆむたファーム」さんです。
鶏小屋の横に広い畑があり、野菜も育てられていました。「すごく、おいしいじゃがいもがあったんよ!」と茅乃舎の料理家さんからのおすすめで、今回はじゃがいもを見にお邪魔したのです。
「野菜を育てたい。それも、無農薬で」。消費者が求めているのは、健康。髙木さんがそう思ったのは、20年前のことでした。
「サラリーマン時代、仕事であちこち生産者を巡っていて、自分も農業をやりたいと思ったんです。それで、無農薬で野菜を勉強できるところを探して愛媛まで行ってみたら、そこでは鶏を飼っていたの。鶏糞を使えば、初心者でも野菜を育てやすいし、たまごが販売できれば生計も成り立つ。このスタイルなら、暮らしていけるんじゃないかな、と」。
そうして、髙木さんの農業と養鶏がはじまりました。
レモン色のたまごって、他のたまごと何が違うんでしょう?どうして、レモン色になるのでしょう?
“すべて自然のまま”
それが答えです。
「ゆむたファーム」さんのたまごにとって、もっとも重要な発酵のお部屋を見せていただきました。ここで、鶏の餌の基礎となる菌が育っています。
ふわ〜んと漂う、ぬかのいい〜香り。手をもぐらせるとあたたかく、ふっくらと安らぎを感じるような心地よさ。
そう、これが酵素。そして、自家製です。
「普通の人ではないぞ...!」、予感的中。
のこ屑とぬかと、今では手に入らないという希少な酵素をまぶして、菌を発酵させて、自家製の酵素を育てていらっしゃいました。
5〜6日寝かせたものが、これ。水分を加えると、どんどんと発酵がすすみ、60度くらいまで温度があがります。
今、菌たちが一生懸命、頑張っている!
当たり前であることの不思議な力を感じながら、この中には、なにひとつ不自然なものがないことを感じます。
そして、酵素を使った餌づくり。
「配合飼料を使わず“自分でつくる”の。配合飼料だと素材がどこから来ていて、どんなものかが分からない。とうもろこしは、ほとんど遺伝子組み換えだから、僕はそれを使いたくない」。
髙木さんが使うのは、つぶした大麦、ぬか、玄米、小麦、雑穀、きなこ、魚粉。そして、自分で発酵させた酵素。そこに、おからを加えてさらに二次発酵させます。すると、約60度まで温度が上がります。
これが、鶏を健康に育てるために、とっても重要なこと。乳酸菌と酵素をたっぷりと入れ、栄養のある素材を混ぜることで、鶏の腸内環境がよくなり、いいたまごができるんです。原理は、人間と一緒なのです。
さらに、髙木さんの考えは、畑へと繋がっていきます。
鶏が糞をする。
それを畑に撒く。
畑で野菜が育つ。
野菜を鶏に与える。
酵素や乳酸菌が豊富な餌で育った鶏糞を撒いた畑は、微生物がたくさん。髙木さんの畑は、万年、賑やかなパーティー状態です。年々土が豊かになり、ふっかふか。
そんな土壌で育つ野菜は、甘みがあって、生命力があって、健康。じゃがいものほかにも、茄子や胡瓜などの夏野菜、水菜や小松菜などの冬野菜など、約60種の野菜を育てているそうです。
生きものの連鎖で生まれ、おおらかな髙木さんに見守られた野菜。
その豊かさとやさしさの中で育った野菜は、体が生き返るようなおいしさです。
山の中で、餌をつくって、野菜を育て、鶏を養い、たまごをご家庭に配達する。
ぜんぶ、じぶんひとりで。
もくもくと、誠実に。
そして、自然のままに。
それが、あるがままを受け入れる髙木さんの、しなやかな生き方のように感じました。
じゃがいもがおいしい季節になりました。ほっくほくを味わいましょう。
熱々のじゃがいもに、冷たい野菜サラダを絡めて一緒にお召し上がりください。
[材料](2人分)
(添え野菜)
アスパラガス
4本
きゅうり(輪切り)
1本
赤玉ねぎ(みじん切り)
1/4個
トマト(角切り)
1個
青しそ(ちぎる)
5枚
[つくり方]
野菜だしのご購入はこちら
https://www.kubara.jp/kayanoya/all_dashi/yasaidashi/
ゆむたファーム
https://yumuta-farm.nouka.net/
20年前、たまご1個10円の時代に、髙木さんは1個40円で売っていました。買い手の反応は、厳しい。それなのに、そんな状況を構わず、鶏たちはどんどん、たまごを産んでしまいます。
「どうしよう…」
シャイな髙木さん。籠にたまごを詰めて、意を決して玄関でピンポン!と訪問販売をしたそうです。
「たまご……い、いかがですか?」
「はい??うちは結構です」。そんなことが、ずっと続きました。
その後、あれやこれやを乗り越え、知人づてに少しずつ広まっていきました。それから、20年。今も、お客様のご家庭に自分で配達することを大切にしているそうです。
↑ こちらは、髙木さんお手製のふるふるオムレツ。畑に咲く、ルッコラの花を添えて。
↑ しあわせのレモン色。
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最新の情報は久原本家通販サイトにてご確認ください。
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